大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成4年(行ツ)8号 判決

福井市手寄一丁目一一番二五号

上告人

山口賢司

右訴訟代理人弁護士

吉川嘉和

福井市春山一丁目六番一号

被上告人

福井税務署長釣谷光春

右指定代理人

大手昭宏

右当事者間の名古屋高等裁判所金沢支部平成二年(行コ)第五号重加算税の賦課決定取消請求事件について、同裁判所が平成三年一〇月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉川嘉和の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

(平成四年(行ツ)第八号 上告人 山口賢司)

上告代理人吉川嘉和の上告理由

原判決には明らかな理由不備及び経験則違背があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない。よって、民事訴訟法第三九四条により、原判決の破棄を求める。

一、原判決は、上告人(控訴人、原告)に対する本件重加算税の賦課決定処分(以下、本件処分という)を有効なものと判断した第一審判決を維持して、控訴人の請求を棄却したが、その理由の要旨は次のとおりである。

1、本件処分には、法の下の平等に反する裁量権の濫用はないという点について

「過去になされた重加算税の例は本件のような事例は全く無く、しかも、修正申告は自主的になされたものと同視すべきであり、法の下の平等に反する」との控訴人主張は、申告態度を総合的にみたときに、本件処分は適法であり、裁量権の濫用もないので当てはまらないと言うべきである。

2、憲法八四条違反の主張について

本件処分は控訴人により多くの負担を負わせたものでなく、憲法八四条違反はないとして、控訴人が税理士にも相談して必要とされる税金を支払う意思があったことや、かつ、本件租税特別措置法の適用は税金の軽減ではなく、単なる繰延であり、場合により多額の税金を支払うこととなるとしても憲法八四条違反はないとして、その理由を控訴人が本件納税に当り、事実を仮装し、あるいは故意に隠蔽したことは疑う余地がないから憲法八四条違反の事実は無いと言う。

3、重加算税の課税要件は、社会的規範的意味の、違法に租税を軽減するという認識は不要である。

二、原判決の前記各判示は、理由不備ないしは理由齟牾であり、かつ、経験則違反の事実認定と判断をなしており、破棄されなければならない。

1、前記1について

控訴人は原審で控訴人のような場合に重加算税が賦課された例について求釈明したが、被控訴人は何ら明らかにしなかった。新聞報道等によっても重加算税は、例えば、株式取引を隠した、金の延べ棒を床下に隠していた、預金名義を匿名を用いていたなどのいわゆる悪質事例に限られていると言える。そこで、控訴人のような場合に重加算税を賦課された例を求釈明したのであるが、一切答えがなかった。

法の下の平等とは抽象的なものでなく、具体的に人々の目に触れ、人が納得し得るものでなければならない。上告人は「新聞等のマスコミ情報では重加算税は特別の事例にしか賦課されないのに、なぜ私が賦課されたのであろうか」としか考えられず、「私は差別されている」と思ったのである。このような疑問を払拭するには課税当局である被控訴人は適切な解釈をなすべきであるし、原裁判所も訴訟指揮により求釈明に応じさせるべきである。それがなされない状態のままでは、控訴人が法の下の平等原則はないのかという感じを抱いていることについて納得せしめたことにはならないことは明らかである。

原判決が控訴人について重加算税の課税要件があり、裁量権の濫用があるとは言えないとのみ判示するのは、控訴人の主張について合理的な反論をなしたものではなく、理由不備である。よって、原判決の破棄を求める。

2、前記2、3について

この点の判断も、理由不備である。すなわち、控訴人の行為は通常では重加算税が賦課されるべきでないこと、かつ、控訴人は必要な税金は当初から支払う意思があったのであるから、本件処分は不当であり、憲法第八四条違反であるとの控訴人主張について、原判決は、「仮装行為等により過少申告の結果が発生すれば足りる」と判示するが、これでは理由を付したことにならない。なぜ足りるのかが問題なのであるが、原判決はその理由を何も明らかにしていないのである。

控訴人が当初から税理士に相談し、その指導に従い現実の使用関係を形にしただけの形態を仮装と極め付けるのも問題であるが、それはさておき、控訴人が租税特別措置の適用がないときは必要とされる納税をする意思でその資金も準備していたとき、控訴人に対し、納税されるべき額以上に重加算税を懲罰的に賦課するのは法治国家(申告納税を基本とする状態)においてはあってはならない。

本件では、当初から課税当局が控訴人に対して納付すべき税金を指示していたなら、控訴人はそのまま納税していたことは控訴人の少年補導員としての経歴や納税についての資金準備など一貫した態度からして明らかである。課税当局が控訴人に対して、重加算税についての形式的要件があるからとして賦課決定をなしたのは十分な事情聴取をしなかったままに判断を急いだからであり、極めて不当である。しかも、重加算税の賦課のときは当該申告について相談に乗った担当税理士にも一定の処分があることは当然であるが、増田税理士には何らの処分もなく、かつ、同担当税理士は税務署出身者であるが、重加算は不当である旨主張しているのである。通常の重加算の場合は申告担当税理士(仮装等の相談に乗ることは少ないが)は重加算も仕方がないと感じる事例が一〇〇%である。本件事例はこの点からしても重加算は不当であり、原判決は経験則に反する事実認定及び判断をなしたものというしかない。

三、以上のとおりであり、原判決を破棄し、さらに相当な裁判を求める

以上

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